アイルランド発のイノベーションは世界を舞台に最先端の決済方法を支援しています。
世界の決済産業は、未曾有のトランスフォーメーションを経験しており、テクノロジーの導入の進行と消費者マインドの変化といった2つの原動力によって推進されています。
当然のごとく、現在各社は革新的で斬新な決済関連製品、サービス、ビジネスモデルの投入に凌ぎを削っています。
アイルランド政府商務庁が新たに制作を委託したeBook、Paytech: Reinventing Transactions(ペイテック(PayTech):トランザクションの方法を刷新)で取り上げられているように、テクノロジーを駆使した新興企業によるこれまでとは全く異なる決済エコシステムの構築により、既存の大企業は創造的破壊の波に飲み込まれようとしています。
それに伴い、新たな機会が増大しており、長きにわたって決済産業の基盤としての役割を果たしている銀行は、新しいデジタル決済オプションという課題に取り組むと共に活用しています。
急成長を遂げる決済テクノロジー
進歩は加速しており、『The 2018 World Payments Report(2018年世界決済レポート)』では、2016年から2021年の間に、全世界のキャッシュレストランザクションは12.7%の割合で増加し続けると予測されています。
さらに、あらゆる種類の決済トランザクションも増加しています。コンサルティング企業として著名なマッキンゼー社によると、国際的な決済収益は、2017年には11%の成長を見せ、1兆9,000億米ドルに達しています。これは5年間で最大の成長率であり、さらに米国における決済収益は5年以内には3兆米ドルの壁を超える見込みです
決済トランスフォーメーションの推進
アイルランドは、このトランスフォーメーションを推進する役割を果たす上で理想的なポジションにあると言えます。
既にグローバルフィンテックハブとして世界的に認められており、国内で培われた専門技術によって国際的なペイテックセンターへと急速な成長を遂げています。
アイルランドでは、多国籍企業と国内企業から構成される強力な決済企業集団を形成し、国際決済産業のトランスフォーメーションを推進する役割を果たしています。Elavon、First Data、Mastercard、Paypal、Citiなどの国際大手企業は、相当量の研究開発業務や決済処理業務をアイルランド国内で行っています。Stripeは、アイルランド出身の兄弟、ジョン・コリソン(John Collison)氏とパトリック・コリソン(Patrick Collison)氏によって設立され、急成長を遂げている国際決済プラットフォームとして注目を集めており、アイルランドを中心にエンジニアリング拠点を大幅に拡大することを計画しています。
アイルランドのペイテック企業は、既に世界中のあらゆる地域ですべての種類の決済に関する優れた実績を保有しています。
たとえばRealex Paymentsは、オンライン企業が顧客から支払いを受け取れるようにするためのテクノロジーを提供することを目的として、2000年代の初めにアイルランドの起業家であるコルム・ライアン(Colm Lyon)氏が設立しました。
同社は、2015年に米国の大手企業Global Paymentsに1億1,500万ユーロで買収され、その時点で既に全世界で12,500社の顧客企業に代わって年間約300億ユーロ相当のトランザクションを処理していました。
ライアン氏の最新のベンチャー事業は、企業および消費者向けの決済企業Fire Financial Servicesです。同社は、企業におけるデジタル口座による決済管理を業務とし、強力なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)によってアクセスが可能な幅広い決済サービスに対応しています。
2018年、Fire Financial Servicesは、アイルランドを拠点とする決済企業で初めてPISP(Payment Initiation Service Provider:決済指図伝達サービス提供者)として認定されました。つまり、金融機関に対して自行のテクノロジープラットフォームを第三者に開放することを求めるEU決済サービス指令(PSD2)に基づいて新しいサービスを提供できることを意味しています。
ペイテックにおけるアイルランドの実力
アイルランド政府商務庁のシニアフィンテック開発アドバイザーであるブレンダン・マコーマック(Brendan McCormack)は、次のように述べています。「決済産業は、大量のB2B、B2C、POS、eコマーストランザクションを現金、カード、コンタクトレス、オンライン、モバイルといったあらゆる決済方法にわたってシームレスに処理する複雑なグローバルエコシステムです。それらすべてのトランザクションは、複雑な金融規則に準拠しながら、正確かつセキュアに処理され、記録されなければなりません。しかも、ますます迅速な処理が要求されるようになってきています。アイルランド企業は、特にカード決済、海外決済、口座間決済、セキュア決済認証、ブロックチェーン、オープンバンキングでの強みを培っており、アイルランドはトランスフォーメーションの最中にあるペイテック分野のイノベーションの中心として頭角を現してきています。
カード決済
たとえばダイナミックカレンシーコンバージョン(DCC:Dynamic Currency Conversion)は、国際カードの保有者が購入国の通貨ではなく自国の通貨で支払うことができるという便利なPOPサービスであり、アイルランドで初めて提供開始されました。
アイルランド企業のFexcoとMonexは、このペイテックソリューションを早い時点から採用しており、この分野での国際的な先駆けとなっています。これらのアイルランド企業は、引き続きこの分野で新しい革新的なペイテックプロジェクトを全世界で展開しています。
WorldnetTPSは、世界各国でEMV(Europay、MasterCard、Visa)が商用端末をチップアンドピンとコンタクトレスの両方の決済方式に対応させ、法令に遵守し、最新の状態を維持するための取り組みを支援しています。
Prepaid Financial Services(PFS)は、アイルランドの起業家ノエル・モラン(Noel Moran)氏によって、10年前に、ロンドンを拠点とするチャレンジャーバンクとして設立され、従来の金融機関に代わって各種のプリペイド決済カードサービスを提供しています。同社では、元英国領のマルタ共和国にあるオフィスとアイルランドのナバンにある関連企業のeComm Merchant Solutionsで160名を超える従業員が勤務しています。賞を獲得したことでも知られる同社は、現在、欧州で急成長中の金融サービスおよびテクノロジー企業ならびに電子マネー決済機関の1つとして数えられています。
海外決済
アイルランドには、海外決済分野でソリューションを提供しているペイテック企業が多数存在しています。そのようなソリューションとして、たとえばオンラインピアツーピア為替マーケットプレイスのCurrencyFairや、時間効率とコスト効率に優れたグローバルB2B決済ソリューションのTransferMateなどがあります。海外決済の分野全体が大幅なグローバルトランスフォーメーションの最中にあり、その分野で先進ソリューションを提供しているアイルランド企業も同様です。
信頼の構築
Sysnet Global Solutionsは、情報漏洩の監視と決済カード情報の盗難リスクの軽減を目的として企業におけるカード決済のセキュリティ強化および組織買収に役立つサイバーセキュリティおよびコンプライアンスソリューションスイートを提供しています。
PSD2に起因する決済分野での重要な展開の1つとして、決済トランザクションの認証に対するニーズの拡大が挙げられます。スマートフォンの生体認証機能を使用して購入者のIDを確認し、トランザクションを処理するソリューションは、間違いなく一層普及するものと思われます。
ダブリンに本社を置くTouchTech Paymentsは、金融機関向けのオンライン認証を専門としています。オンライン決済からローン契約やオンラインバンキングのログインまで、あらゆる認証に使用できるコンプライアンスソリューションを提供しています。同社の製品は、すべて業界規格に基づく認定を受けており、EUのPSD2や最近発行された規制技術基準(Regulatory Technical Standards)を含め、現行のあらゆる規制基準を満たしています。
Biometric Strong Customer Authenticationソリューションでは、スマートフォンテクノロジーを利用して、銀行顧客がわざわざユーザー名やコードを思い出さなくてもオンラインバンキングのすべての機能に簡単にアクセスすることを可能にします。これにより、オンラインバンキングとモバイル決済で提供されているサービスへのアクセス率が増加しています。
Daonは、最終的には認証手段としてのユーザー名とパスワードに代わるテクノロジーを開発しました。同社のユニバーサルプラットフォームを利用することにより、あらゆるモバイルデバイスで写真を自撮りするだけでユーザー認証を行えるようになります。顧客企業やその利用者が使用したい生体認証(顔認識、音声認識、指紋IDを含むが、それらに限定されない)を選択できるように調整することもできます。それらのすべての要素は、個別に使用することも、組み合わせて多要素認証で使用することもできるため、個々のトランザクションのリスクに基づいて必要レベルの保証が実現されます。
口座間送金決済
Sentenialは、欧州地域における決済ソリューションのトッププロバイダーであり、世界各国の大手銀行のアウトソーシングプロバイダーとして、次世代型クラウド決済プラットフォームで年間420億ユーロ以上をセキュアに処理しています。
同社の最新のイノベーションの1つであるNuapayは、オープンバンキングの先駆けであり、業界をリードする口座間決済送金環境を構築し、現代のバンキングおよび決済ソリューションの新たな可能性の創造に貢献しています。
社会的な使命
アイルランド企業は、銀行口座非保有者層や非銀行利用者層向けの革新的な決済ソリューションも提供しています。PiPiT Globalは、現金を電子決済に変えるセキュアなオンライン決済プラットフォームを誕生させました。
具体的に言うと、世界各国で生活および労働に従事する移民が、銀行サービスに完全にアクセスできない場合に、手数料を抑えながらセキュアな方法で海外への送金および支払いを行えるようにするというものです。郵便局などの収集ネットワークでバーコードまたはQRコードを使用して、現金を該当の支払いに充当したり、本国の口座に送金したりします。
アイルランド企業のAID:Techは、ブロックチェーンテクノロジーを使用して、難民キャンプへの国際支援の提供を含めた、支援、福祉、寄付などの給付金のデジタル化、配給、追跡記録を実現しています。このソリューションによって、初めて受取人への寄付の支払いを追跡することが可能になりました。
ペイテックの可能性
現時点では、ペイテックの可能性は無限であるように見えますが、問題となるのは、誰が、どのようにして、その将来性を最初に活用するかということです。アイルランドのペイテック企業はその点において先行しています。
マコーマックは、次のように語っています。「これらはほんの一部であり、世界中に流通している興味深いペイテック製品を既に開発したアイルランド企業は他にもたくさんあります。」
2019年は、PSD2の恩恵が広まり、オープンバンキングが一般化する年になると位置付けられ、決済エコシステムは大幅な変化を遂げるものと見込まれます。従来の金融組織とは異なる組織が提供する決済製品だけでなく、ブロックチェーンや暗号通貨といった進化するテクノロジーにより、決済産業が創造破壊されることになる可能性もあります。決済処理業者によって収集されたデータを消費する豊富な顧客基盤を分析できる可能性は、今後数年以内に決済市場に参入することを画策している大手テクノロジー企業にとって大きな魅力であり、アイルランドのペイテック産業は国内に拠点を設けているこうした多くの企業と既に緊密な関係を築いているところです。」
つまり、新たに登場している創造破壊的な決済エコシステムの行方を見定めようとする者にとって、アイルランドのペイテックイノベーターまさに最善のお手本であると言えます。